映画『花嫁はどこへ?』
喜劇ではないし、サスペンスでもないし、予告編だと誤解するが、本当は心温まる人情ドラマ。
インドの打楽器をつかった出だしの音楽は、ポップで新鮮で、これだけでも十分に価値がある。インドでもさすがに、花嫁を取り違えるというのは、そんなにあり得るという話でもないのか、取り違えが起きるまでの描写が念が入りすぎて冗長に感じるが、そのことが起きてからの展開は、ハラハラありでとても映画的だ。そのハラハラ感でずっと引っ張っていかれて、映画のキモは最後の方であきらかになる。それは、よくあるサスペンスものでおきる最後に種明かし的なカタルシスではなくて、本当のところこの映画は二人の女性の成長の物語だったのだ、という深い温かい振り返り、とでもいう種類のカタルシスである。
印象に残る重要な役回りは、主人公の二人とともに、駅のホームで出会うチャイを売る年配の女性だ。花嫁修業はしたけれど、自分の出身の村の場所さえ分からない花嫁に向かって「マヌケは自分がマヌケとはしらない」とか、最後の方でさとすように「女は働けるし、炊事もできるし、子供も産める。男なんかあまり必要ではない」と伝える。
映画の後半で、もう一方の花嫁についてのサスペンスめいた事件が、それまで悪徳ぶりを発揮していた警察署長の機転で解決すると、映画全体の構想とテーマがじんわりと浮かび上がってくる。それは女性たちの成長の物語、そして、人間としての普遍的な成長についての物語でもある。
込み入った事情と展開、登場人物の際立ったキャラクター、音楽、にぎやかなインド映画ならではの、あたたかいヒューマンドラマを満喫した。本当の意味でいい映画、とでもしかいいようがない映画だ。
原題はLaapataa Ladies。
監督 キラン・ラオ Kiran Rao
公開 2024年