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    映画『愛がなんだ』

    佐野 ヒロシ

    映画『愛がなんだ』

    「すき!」っていったい何だろう、がテーマの映画。ただ、題名からして、言い切っているような、いないような、そんな不思議さにひかれて観た映画だ。

    本編の冒頭部分が、そのまま予告編につかわれていた。こんなのはじめてだ。冒頭部分がかなり大事なキモで、そのアトの展開は、きちんと筋だっているのか、いないのか、現実というものが、そうであるように、なぞっていく、といった趣でつづいていく。

    てるちゃんという女の子が、まもちゃんという男の子をすきになって、電話がくれば、なんでもしてあげるために駆けつけていく。ただ、従属関係が逆の男女の話が、平行して進んでいて、時折、鏡のように写しあって、その異常さを確認しあっていく。そこへ、すみれさんという、自由奔放な女性がからんでくる。後半で、やっと各自の人物像が浮かび上がる。ここにいたるまでは、受け身のまもちゃんの気持ちのままに映画が進んでいく。

    たぶん、ここにいたるまでのエピソードは、観る側のいろいろな感情を自然に引き出している。この映画が、よい映画だとしたら、人物たちの気持ちにすなおに反応できるようなリズムで作られていることだろう。そういう意味で、映像や演出はよく練られていると思う。

    ここまでくれば、結論はどうでもよいのだ。映画のラストが観客へのせめてものサービスのはずだ。ところが、この映画ではテーマ原理主義にもどってしまって、てるちゃんの好きについての結論で終わってしまっている。

    登場人物のだれか一人でもよいから、幸せになって、終わってほしかった。この映画につきあって、自分の不幸せな部分をかみしめたかもしれない、大部分の観客にたいする、せめてもの報奨であってほしかった。(hs)

    監督 今泉力哉
    公開 2019年4月
    評価
    4/5

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