映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』
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叙事詩のように、淡々と最後に再び現れる題名に向かって積みあがっていく映画だ。
友人を死に追いやった男たちへの怒りと、復讐の道筋をつつむ心情は、深くて壮大だ。
この無念をどう描いたらよいのかわからない、という迷いに突き動かされるようにこの映画は始まる。
前半に描かれるのは、主人公の心情のありどころだが、心を、可視化すればこのような場面になる、という展開が、観る側をいやみなく引き付ける。
中盤では、ひょっとしたら幸せになれるかもしれない、ボーイフレンドとのこころを通わせる時間がたたみかけるように映し出される。
それが裏切られるところから、復讐劇は一気に進んでいく。
そして、最後にすべての出来事が終わった時に、題名の意味が反転することになる。
ただひとつの目的のために人生のすべてをかける主人公役のキャリー・マリガンの力は大きかった。悲しみの中に意志の強さと、怒りとを表現して映画をけん引する。その目にはさまざまな色彩の憂いがあった。
この映画で唯一描かれていなかったのが、主人公の動機となった友人の死、だが、描かないことによって、観る側を最後まで引き付ける、という効果もあった。
そのことによって、主人公の抑制された心情が深みと壮大さを勝ち得たのだと思う。
(h.s)
監督 エメラルド・フェネル
公開 2021年7月
© 2021.Hiroshi Sano
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