タグ: アジアの天使

  • 映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』


    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    (C)Focus Features

    叙事詩のように、淡々と最後に再び現れる題名に向かって積みあがっていく映画だ。
    友人を死に追いやった男たちへの怒りと、復讐の道筋をつつむ心情は、深くて壮大だ。
    この無念をどう描いたらよいのかわからない、という迷いに突き動かされるようにこの映画は始まる。
    前半に描かれるのは、主人公の心情のありどころだが、心を、可視化すればこのような場面になる、という展開が、観る側をいやみなく引き付ける。
    中盤では、ひょっとしたら幸せになれるかもしれない、ボーイフレンドとのこころを通わせる時間がたたみかけるように映し出される。
    それが裏切られるところから、復讐劇は一気に進んでいく。
    そして、最後にすべての出来事が終わった時に、題名の意味が反転することになる。
    ただひとつの目的のために人生のすべてをかける主人公役のキャリー・マリガンの力は大きかった。悲しみの中に意志の強さと、怒りとを表現して映画をけん引する。その目にはさまざまな色彩の憂いがあった。
    この映画で唯一描かれていなかったのが、主人公の動機となった友人の死、だが、描かないことによって、観る側を最後まで引き付ける、という効果もあった。
    そのことによって、主人公の抑制された心情が深みと壮大さを勝ち得たのだと思う。
    (h.s)

    監督 エメラルド・フェネル
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?

    映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?


    映画『アジアの天使』

    『アジアの天使』はガタピシしていた出だしがだんだん落ち着いてきて、恋愛ドラマに収れんしていく映画。
    一応「アジアの天使」が登場するので、看板は偽っていはいない。しかしでこぼこ感はずっとつづくので、ふさわしい題名は何だ、とか、三題噺ではないだろうか、とか、没入しきれないで観てしまうきらいはある。
    主役の池松壮亮は感情を爆発させる場面は違和感があった。いづれも主題(たぶん他者を大切にする愛情)とは関係ない場面だったので主人公のエキセントリックさを強調するだけに終わった。
    オダギリジョーは、(おそらく)アドリブのシーンでハシャギ過ぎが鼻についた。
    一方韓国の俳優はいづれも見事で魅力があった。
    しかし、ガタピシした感じはやがてこの映画の豊な可能性として余韻を残していく。
    ストーリーは日本人の兄弟が、韓国人の家族とたまたま同じ列車に乗り合わせて、その墓参りについていくというもの。連れの子どもがオシッコをしたくなったり、韓国人のヒロインがお腹が痛くなったり、韓国人のおばさんの家で歓待されたりする。途中ヒロインが 所属する芸能プロダクション社長とのつらいエピソードが入ったりする。
    いちおう映画の社会性を担保する骨組みの要素(妻の死、悪徳芸能プロ社長、つらいソウルでの生活)は入っている。
    しかし、映画のメインの旅自体には、韓国の家族の側にも、日本人の側にも、理由も必然性もなかったことが明かされる。
    だから、出来事の断片をつなぎ合わせた、だけ、という痕跡をのこしつつ、じつはこれこそが映画の隠れたテーマだったりする作品だ。
    そういういみでは、オダギリジョーのハシャギ過ぎのアドリブは、映画全体の意味を暗示している。
    唐突なお笑い芸人のような天使ももう一つの隠れたテーマだ。
    誤解を恐れずに言えば、出たとこ勝負を力業でまとめあげた映画、と言えると思う。ここには洗練はないが、可能性はたしかにある、という意味で、観た後、腑に落ちた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 石井裕也
    公開 2021年7月

    評価
    4/5

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    https://youtu.be/ld0C39UiAO8

    © 2021.Hiroshi Sano

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    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『1秒先の彼女』は可愛いファンタジー

    映画『1秒先の彼女』は可愛いファンタジー

    映画『1秒先の彼女』は可愛らしいファンタジー

    (C) MandarinVision Co, Ltd

    映画『Ⅰ秒先の彼女』は、半分ファンタジーの爽やかな恋愛映画である。
    話の前半分はテンポもよく、ウィットにも富んで、楽しい。ドタバタチックな喜劇は、香港映画や韓国映画の脂ぎった匂いがないのが新鮮だ(これは台湾映画)。というか、よくよく練られた展開に、安っぽい日本映画の恋愛ものに比べて、うらやましくなる。
    後半は、「得した1日」での出来事と、そのSFチックな理由が明らかになるが、いまいちすんなり来ない。
    前半で、やもりの面白い話があったので、後半もいっそのこと幻想ということにする手もあったのに、あえて宇宙の謎みたいな屁理屈にしてしまったので、トーンが崩れてしまった可能性がある。
    女主人公を連れまわすシーンは少々説得力が不足していたと思う。
    そのあたりは観客に我慢をしいるわけだが、最後の最後は、主人公たちの出会いですくわれるし、ステキな最後になったと思う。
    主演はリー・ペイユー(パティ・リー)。スラっとした長身。婚期をあせりながら、郵便局の窓口に勤める役を上手に演じている。小さいころから反応がはやくてそそかしい。隣の席のかわいい同僚のデートの話に、かなり下品なツッコミを入れている。そのくせ、恋愛経験にとぼしく、純心で、さわやかで、日々つつましく過ごしている。そうした憎めない日常を演じるのにこれ以上ない適役のように思えた。

    映画『1秒先の彼女』予告編

    © 2021.Hiroshi Sano