佐野 ヒロシ
映画『殺さない彼と死なない彼女』
監督のセンスの良さが、最後まで力強い。ツーショットで会話がつづくシーンの繰り返しも面白い。たぶん原作の力か、高校生という人種の生態がこまかくリアルに拾われていて、いやみがない。
なぜか、ぼやけさせた画像が長いのが、不必要で疲れる。
しかし、総てをひっくるめて、かなり質の高い青春映画だ。
『カメ止め』は、センスが悪い、そして、プロットの意外性一本槍なのに比べると、まったく正反対だが、面白く興奮する映画だ。
(撮影に詳しそうな監督、ということで、なるほどと思わせるところが多々ある。ただし、新人がおもちゃをいじくっているようなところがあって、味付けにはなっているが、粗すぎ。音声の処理もイマイチ。ただし、その総てをひっくるめて、才能の噴出に出会ったような快感があった)
とここまで書いて、静かに振り返ると、「八千代君」、「キャピ子」、「死なない彼女」の3つの物語の合成だと分かる。「死なない彼女」がメインのストーリーとなっているが、他のふたつがあるおかげで、全体に深みがでている。原作はSNS漫画家(?)の『世紀末』氏。きつい会話がほのぼのとした線の漫画で展開する。この映画は、その「きつい会話」と「ほのぼのとした漫画」の間の実写として奇跡的に成立している。
セリフはどうも、原作からそっくりとっているようだ。ただし、原作はショートストリーリの集合なので、映画として長尺な作品に完成させた手腕は監督のものだ。
登場人物がそれぞれ生きている。それに原作者の世紀末氏、それに監督の小林氏、のごちゃまぜ感がこの映画の魅力を高めている。いまから考えると「細部が生きている」、とでも表現したい映画だ。
(hs)
監督 小林啓一
公開 2019年11月
評価
4.5/5
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