佐野 ヒロシ
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映画『ノマドランド』
どちらかと言えば、希望がほのかに垣間見られるが、それは、制作者のあたたかい視線の反映とでもいうべき明るさで、真の希望の光といった、映画にとっての十分条件を満たしてはいない。
ここに描かれているのが、絶望なのか、希望なのか、判然としない。結局のところ、求道の映画といったところが、一番落ち着くかもしれない。
多分、セリフの一部にもあるように、ノマド(遊牧民)的な生き方は、アメリカの伝統でもあって、それによって、この映画がアメリカ人の称賛を得ることになったのでろう。
もともと、ノマドであったわけではない主人公が、ある日、ノマドになったわけだから、伝統のような社会の底流をながれるものが、主人公を突き動かしていったというのも筋立てとしてはあり得る。
主人公は、どうしても定住できない。気持ちのよい部屋の、快適なベッドを、生理的に拒絶してしまう(ように見える)。
主人公と、ノマド集団のリーダーそれぞれの人生には、親しい者の死があることが、話の中で出てくる。また、知り合ったノマドの仲間は、死に向かう生のなかで、希望をかなえようとして、別れていくが、どうやらかなえることが出来る。
映画は死を強調するわけではないが、非定住の死との関係と、定住と死との関係について、ほのかに投影している。それはとても興味深いテーマで、日本の伝統とも通底する。
(h.s)
監督 クロエ・ジャオ
公開 2021年3月
評価
4/5
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