佐野 ヒロシ
映画『盲目のメロディー インド式殺人協奏曲』
最後まで見ると、イントロの映像とうまくマッチしたエンディングで、しゃれたつくりになっている。だが、真ん中のあんこの部分が問題だ。
盲目と偽ったピアニストが、殺人現場に居合わせてしまうシーンは何かが欠けてもったいない印象だ。
ストーリーはどんでん返しの連続で、かつ、ほどよいインドの世相も分かって興味がもてる。
しかし、せっかくの面白いプロットの展開が、だるい演出で精彩をそがれてしまった。
詳しく書くと、長大になりそうな予感がするので、短く切り上げるが、同じような情景をいつか見たような気がした。日本の映画にもかつて、こんな不具合があった。インド映画にはインドの観客を喜ばせる定型があると思う。必ず歌と踊りが出てきて、主演俳優がしつこいほどアップになったりする。それはそれで、「インド流」として日本でも楽しめる。しかし、この映画は本格的な、どの国でもうけいれられる普遍的な体裁の「娯楽映画」になっている。なのに、インドの観客向けサービスの尻尾がついている。
誤解してほしくないが、インドの世相が描かれているのとは別である。
俳優は優秀だ。ストーリーやプロットも秀逸だ。だが、しつこいインド流が、まどろこしい演出となって、もしかしたら黒沢明になれたかもしれない映画を阻害してしまった。
短く言えば、「土着映画」から「普遍的映画」への中間作品だ。
これは忘れずに付け加えると、主人公の一人、タブーという名の女優の演技は素晴らしかった。
(h.s)
監督 シュリラーム・ラガバン
公開 2019年11月
評価
3/5
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