佐野 ヒロシ

映画『グリーンブック』

洗練された音楽、映像、演技、の組み合わせで生まれた「幸せ」な映画だ。表面的には人種差別がテーマだが、本当の、しかも力強いテーマは妻の(そして妻への)愛だと思う。この映画の洗練の裏側には抑制があるが、この抑制のおかげで、主人公のビゴ・モーテンセンの演技が計算されたものに見えてしまう。映画を印象づける毒が欠けてしまったように見えた。ただし、こうした評はいまいち観る側の理解不足もあるかもしれない。
謎は、もう一人の主人公マハーシャラ・アリの演技だ。すでにアカデミー賞を受賞して、演技力に高い評価があるのだろうから、彼がどういう意図で演技を組み立てていったのかが、この映画の本質を理解する鍵かもしれない。
彼が演じるビアニスト、ドクター・シャーリーが演奏後に見せる笑顔は場面によって違う。また、酔いどれて事件を起こしたあとに吐露する心情の場面にはそれこそこの作品の訴えたい主題にあるはずだ。そう考えると、掘り下げがいがある映画といえるかもしれない。ただ、観客は王様だ、というこちらがわの立場からすれば、もっと分からせてくれよ、とも感じる。(hs)監督 ピーター・ファレリー
公開 2019年3月
評価
4/5

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