映画『共謀家族』

ちょっとしたパズル感覚があるので、映画好きは引き付けられやすい筋立てだ。
タイに住むある一家に起きる事件だが、主人公はもともとは中国からの移民だ。働きもので、町の人々からは信頼されている。そのあたりの生活の様子は、タイが舞台だとなかなか悟れないのでややまとめきれない印象だ。
事件が起きて、家族が真相を隠すためにまとまる、といったところから一気に物語は進んでいく。
映画好きの主人公が、これまでに観た犯罪映画の知識を駆使して、警察の尋問をかいくぐって行く場面が、この映画の見どころとして設定されている。
この映画を観る側も、ある程度の映画好きならば、とても共感できるようなシーンが連続する。
取り調べるのはこわもての女性の警察署長で、実は、事件の発端である、一家に殺された青年は、実はこの女性が母親として甘やかして育てた実の息子という設定だ。この青年に暴行された娘の一家と、女性署長の対立がつよい感情の対立軸になって、終盤にむけて、生の対立にまで昇華する。
もともとのインド映画のリメイクだということだ。リメイクにありがちな、ぎこちなさがひょっとして残っているのかもしれないと感じさせるところもある。
生の人間の生死の対決や、民衆の暴動も巻き込んだ設定など、知的な謎解き風の展開なども含めて、なぜか、黒沢明を連想させた。
隣人に愛されて、人のよい父親が、やがて理性に支えられた強い意志をもった存在へと変貌していく。そうした隠れたドラマもあるのだが、すじだてのかまびすしさに紛れているのがもったいないと言えるかもしれない。

監督 サム・クァー
公開 2021年7月

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