カテゴリー: 映画

  • 映画『記憶にございません!』

    映画『記憶にございません!』

    佐野 ヒロシ

    映画『記憶にございません!』

    バランス抜群の小気味よい喜劇!
    多くの人がすでに観たと思うので、いまさら批評めいたことを書く必要もないが、それでも一言いいたいのは、ヤフーの評価点数が、やや低いと感じたからだ。
    そして、そこにこそ、この映画の屈折した面白みがある。
    脇道にそれるが、俳優は、木村佳乃のアメリカ大統領と通訳(宮崎エマ)が出色。このあり得ない超リアリティーに、ハラハラして笑う初めての体験をした!(最新ゴジラで、石原さとみの同じ役柄は酷かった!)
    本題にもどると、控えめなカメラワークと、使いまわしのようなセット、そのすべてが語るのが、(たぶん)三谷幸喜のアンチ映画手法だ。かいつまんで言えば、映画であって映画でない、この面白さ。たぶん、「映画」を観に行った人たちは、違和感を感じて、低めに点をつけたように思える。 (hs)

    監督 三谷幸喜
    公開 2019年8月

    評価
    4.4/5

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  • 映画『マーウェル』

    映画『マーウェル』

    佐野 ヒロシ

    映画『マーウェル』

    注目度、ベスト5にいれたい!
    が、ちょっとクセのあるテーマなので、一般向けではないかも。
    物語は、パンプス(ハイヒール)が好きな(あるいはこだわる)男が、そのおかげで(変態だということで)、記憶をなくすほどの暴行に会うが、町の人の温かさに支えられて、最後にはパンプスを履いて(偏見をもろともせずに)歩きまわれるほどに回復する、という展開である。
    だから、テーマは、一見、少数性癖者に対する偏見を正すことにあるように見えるが、この映画の存在価値はそこにはない。
    主人公はフィギャー(人形)をあつめて、写真を撮っている。そのフィギャーは、自分の分身や、自分が出会った女性たちに似ている。彼らは、チームとなって、ナチと戦っている。
    映画の内容は、それが、総てだ。
    で、なにがすごいのかというと、主人公はフィギャーをポーズさせて、スチル写真しか撮れない。
    ところが、ゼメキス監督は、主人公の写真の前後のシーケンスを、つまり、主人公の妄想の部分を素敵なモーションピクチャーにして、映画を仕上げたことだ。
    その妄想の映像化がじつに素敵。
    (私が感銘する)映画の本質を具現化しているので、とても気に入ってしまった。
    これ以上、言うと、フェリーニのアマルコルドとかを論じたくなるので、今のところはここでやめておく。(hs)

    監督 ゼメキス
    公開 2019年

    評価
    4/5

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  • 映画『RBG 最強の85才』

    映画『RBG 最強の85才』

    佐野 ヒロシ

    映画『RBG 最強の85才』

    現役のアメリカ最高裁判事、ルース・ベーダー・ギンズバーグの人生のドキュメンタリー。面白い!の一言。
    RBGは、名前の略。ロール・プレイング・ゲームが強い、85才のおばあさんの話ではない。・・念のため。
    一貫して女性の権利のために戦ってきたので、あるとき、RBGと呼ばれて、突然人気者になったらしい。
    その生きざまは、熱することなく、激することなく、ひすら一貫していて、おだやかな色でなめらかな完璧さを思わせる、象牙の表面を見ているような、見事さ。
    上院の公聴会で、中絶に賛成か、反対か、と聞かれたときの答えは、「女性が自分の道を自分で選べるようでなければならない」だった。
    中絶反対派の議員も説き伏せて、はれて、最高裁判事として承認される。
    ただ、気になったのは、目の前の人間を見るよりも、遠くを見るような眼だった。ものごとをなしとげるには必要な目だったのだろうが、公聴会で、目の前の上院議員たちを、幼稚園児にたとえた、過剰な抑制は、逆に、人間味の扁平さがあるような気がしてならなかった。(hs)

    監督 
    公開 2019年

    評価
    4/5

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  • 映画『柴公園』

    映画『柴公園』

    佐野 ヒロシ

    映画『柴公園』

    柴犬を連れた男三人がつどうので、彼らが勝手に「柴公園」と名付けた。
    ま、それはいいとして、ひょっとしたら、この映画は傑作なのではないか、と今思っている。
    女性の描き方にこだわりを感じたので、ひょっとして、女性監督かな、と思ったが、男のようだ。
    話の展開は、前半、コントのようで、テンポがよく、観ながら「これは買いだ」と思わせる展開だった。
    後半、まったく違う展開で、引きこもり気味の女性との恋愛物語になる。
    監督は、これを謎解き方式で展開しようとして、フラッシュバックを多用したが、後半一部失敗した。しかし、にも関わらず、意外と腰のつよいメッセージが伝わってきて、社会性も感じられる、好印象の映画になった。
    ただ、主役はやや、難アリで、魅力にかける。思い切って、福山雅治でもよかったのではないか。
    いまにも破たんしそうな映画展開を感じるかもしれないが、意外に尖った部分があちこちあって、映画は面白いと感じさせてくれた。

     

    (hs)

    監督 綾部真弥
    公開 2019年6月

    評価
    4/5

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  • 映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女のゆめを見ない』

    映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女のゆめを見ない』

    佐野 ヒロシ

    映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』

    周りがプラスの要素ばかりで囲まれている、少年の恋愛物語の顛末。
    登場人物は主人公と、主人公に好意をもつ女子ばかり。しかも、主人公の高校生は、なんと、先輩で、卒業後タレントになっている美女子に愛されている、ばかりか、一緒に暮らしている。
    食卓に、ショートケーキと、アイスクリームと、マシュマロと、プリンがのっているような感じ。
    時間が平行したり、交差しているらしくて、悲劇的な未来も、やり直しでなんとか妥当な結末にたどり着けるらしい。
    肉欲に直結するような匂いは皆無で、会話はプラトニックなものばかり。
    このラノベの原作シリーズが好評らしい。今時の少年たちの夢とあこがれであるようだ。
    と見下したような書き方だが、ここちのよい世界であるのは確かだ。
    映画館は、一人をのぞいて、少年や青年でいっぱいだった。(hs)

    監督 増井壮一
    公開 2019年6月
    原作 鴨志田一

    評価
    3.3/5

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  • 映画『潮騒』主演吉永小百合

    佐野 ヒロシ

    日本映画の「愛」はなんだ その1

    映画『潮騒』 主演吉永小百合

    日本映画の「愛」について、がぜん興味がわいてきた。愛と言えば、なんとなく吉永小百合が見たくなって、『潮騒』をDVDで観た。 『潮騒』は、若い男女が衣服を脱いで向き合う、というのがお決まりの映画で、ほかに山口百恵主演やいくつかバージョンがあるらしい。

    ちいさな島が舞台である。若い初江と新治の物語である。浜で働く初江を初めて見て、新治は好きになる。初江も好意をもつ。新治は少年の初々しい気持ちを残した漁師だ。ある日、島の廃屋で偶然二人は会って、再会を望むが、嵐の日に会おう、と約束する。嵐になれば、新治は漁に出なくていいからだ。とここまでが、前半だ。

    さて、その日から新治は天気が気になってしょうがない。漁師なら嵐はいやなはずだが、嵐が来そうにないとがっかりする新治、というコミカルなシーンがあって、いよいよ嵐の日がやってきた。

    ここから第一のクライマックスがやってくる。早めに着いた新治は待ち疲れて、たき火をしたままうとうとと寝てしまう。嵐の中を遅れてやってきた初江は全身雨にあたってぐっしょり濡れている。たき火を見つけると、さむさに震える初江は服を脱いで乾かそうとする。薪の陰で寝ている新治は、初江に気がつくが、その裸のすがた(たぶん美しい)にびっくりして立ち上がって近づこうとする。すると初江は、来てはだめだと言う。なぜか、と新治が問うと、恥ずかしい、と答えが返った。では、どうしたら恥ずかしくないか、と問うと、新治にも裸になれ、と言う。

    新治は上半身を裸になるが、初江は、それでは不十分だ、と言うのである。そこで、新治は下をとる。新治はもじもじする。すると、おどろくなかれ、初江は新治にむかって、足元の火を飛び越えて、来い!、というのである。新治は飛び越えた。(中略  愛について考察するには、このあとの驚くべき展開をあらすじごと書かなければならないのに気が付いた。)
    (中略 これほど手ごわい映画ははじめてだ。たぶん原作がしっかりしているからだろう。)
    この後二人は、愛をはぐくむのだが、世間(島の人々)の干渉(?)を乗り越えなければならない。
    二人が夜陰に山道から降りてくるのを目撃した、灯台守の娘が、初江の婚約者に、告げ口をする。島の子どもたちが、二人は出来ている、とはしゃいで島中を駆け巡る。初江は婚約者に、犯されそうになる。(つづく)

    (hs)

    監督 森永健次郎
    公開 1964年4月

    評価
    4/5

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  • 映画『愛がなんだ』

    映画『愛がなんだ』

    佐野 ヒロシ

    映画『愛がなんだ』

    「すき!」っていったい何だろう、がテーマの映画。ただ、題名からして、言い切っているような、いないような、そんな不思議さにひかれて観た映画だ。

    本編の冒頭部分が、そのまま予告編につかわれていた。こんなのはじめてだ。冒頭部分がかなり大事なキモで、そのアトの展開は、きちんと筋だっているのか、いないのか、現実というものが、そうであるように、なぞっていく、といった趣でつづいていく。

    てるちゃんという女の子が、まもちゃんという男の子をすきになって、電話がくれば、なんでもしてあげるために駆けつけていく。ただ、従属関係が逆の男女の話が、平行して進んでいて、時折、鏡のように写しあって、その異常さを確認しあっていく。そこへ、すみれさんという、自由奔放な女性がからんでくる。後半で、やっと各自の人物像が浮かび上がる。ここにいたるまでは、受け身のまもちゃんの気持ちのままに映画が進んでいく。

    たぶん、ここにいたるまでのエピソードは、観る側のいろいろな感情を自然に引き出している。この映画が、よい映画だとしたら、人物たちの気持ちにすなおに反応できるようなリズムで作られていることだろう。そういう意味で、映像や演出はよく練られていると思う。

    ここまでくれば、結論はどうでもよいのだ。映画のラストが観客へのせめてものサービスのはずだ。ところが、この映画ではテーマ原理主義にもどってしまって、てるちゃんの好きについての結論で終わってしまっている。

    登場人物のだれか一人でもよいから、幸せになって、終わってほしかった。この映画につきあって、自分の不幸せな部分をかみしめたかもしれない、大部分の観客にたいする、せめてもの報奨であってほしかった。(hs)

    監督 今泉力哉
    公開 2019年4月
    評価
    4/5

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  • 映画『君は月夜に光り輝く』

    映画『君は月夜に光り輝く』

    佐野 ヒロシ

    映画『君は月夜に光り輝く』

    不治の病におかされた少女が、クラスメートの男子の献身で、充実した最後の日々をおくる。2年前に公開された映画『君の膵臓をたべたい』と似た設定。しかも、なんと同じ監督だった。

    そのことで、作品自体よりもなぜ二つが作られたのかの方に興味が行ってしまう。『君の膵臓をたべたい』は感動もあるヒット作だが、不自然な、というか、観る側が居心地がわるいシーンがいくつかあった。主人公の友人の成長した姿が北川景子、というのも不自然だった。小栗旬も説得力が薄かった。若い主人公どうしの高校生らしいちょっと危ない冒険での生のやりとりが映画の魅力になっていた。主人公を演じた浜辺美波が最後まで可愛い印象を残した。

    さてこの『君は月夜に光り輝く』は、そうした枝葉を切り落として、スッキリした印象になっている。カメラや照明、美術もレベルがそろっている。ストーリーの流れも、単純だ。端正なクラシカルな面持ちをまとうまでになっている。ところが、感動がなぜか薄くなってしまっているのも不思議だ。(hs)

    監督 月川翔
    公開 2019年4月
    評価
    4/5

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  • 映画『グリーン・ブック』

    映画『グリーン・ブック』

    佐野 ヒロシ

    映画『グリーンブック』

    洗練された音楽、映像、演技、の組み合わせで生まれた「幸せ」な映画だ。表面的には人種差別がテーマだが、本当の、しかも力強いテーマは妻の(そして妻への)愛だと思う。この映画の洗練の裏側には抑制があるが、この抑制のおかげで、主人公のビゴ・モーテンセンの演技が計算されたものに見えてしまう。映画を印象づける毒が欠けてしまったように見えた。ただし、こうした評はいまいち観る側の理解不足もあるかもしれない。
    謎は、もう一人の主人公マハーシャラ・アリの演技だ。すでにアカデミー賞を受賞して、演技力に高い評価があるのだろうから、彼がどういう意図で演技を組み立てていったのかが、この映画の本質を理解する鍵かもしれない。
    彼が演じるビアニスト、ドクター・シャーリーが演奏後に見せる笑顔は場面によって違う。また、酔いどれて事件を起こしたあとに吐露する心情の場面にはそれこそこの作品の訴えたい主題にあるはずだ。そう考えると、掘り下げがいがある映画といえるかもしれない。ただ、観客は王様だ、というこちらがわの立場からすれば、もっと分からせてくれよ、とも感じる。(hs)監督 ピーター・ファレリー
    公開 2019年3月
    評価
    4/5

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  • 映画『七つの会議』

    映画『七つの会議』

    佐野 ヒロシ

    映画『七つの会議』

    振り返ってかみしめるとすごい傑作だったのではないかと思えてくる映画だ。出だしは誇張に誇張を重ねた『半沢直樹』の社畜ものシーンからはじまるが、観る側はやや緊張させられながらも、やっぱりそういう映画なのだ、と既視感に上手に誘導される。ところが、映画の本筋は実はそれがいったいなぜだったのか、という謎解きだったのだ。

    映画ならではの面白さもここにはあった。凝縮した時間のなかで語りつくすという条件をうまく使っている。過去にもどって謎解き、あるいは種明かし、フラッシュバックはこの映画の最大の強みとなった。テレビでの毎週放送の積み重ねという条件では、大事な伏線も忘れてしまうから、効果もちがったものになっただろう。

    出だしで観る側を油断させておいて、謎解きの種明かしが、さらにその奥の種明かしにつながっていく。解きほぐせば、時系列的に一本の糸だが、それを、幾層もの謎解きの面白さに構成していくという、原作と脚本の力がすごい。監督も見る側をその気にさせる度合いを計算しているのが優れている。さらにこれでもかこれでもか、とベテラン俳優が出てくるのも、エンタテイメントの王道を行っている。

    そんなにすごい映画なのに、いまいち「傑作」と心から言い切れない霞のような見通しの悪さがのこる。なぜだろう。最後に残されたこの謎をおいおい解いてみよう。

    でも、そんな何もかもふくめて、オススの一本かもしれない。(H.S)

    監督 福沢克雄公開 2019年2月
    評価
    4.7/5

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