カテゴリー: 映画

  • 映画『フリー・ガイ』

    映画『フリー・ガイ』


    映画『フリー・ガイ』

    いきなりゲームの世界の中から、あたかも日常が始まる。
    ゲームの世界には、ある種、背景の人物であるモブキャラというのがつきものらしい。そのモブキャラがAIによって自律成長をはじめたらどうなるか、というのがこの映画の筋立てだ。面白かった。
    こうした映画は、科学的な合理性に合致するようにいくつかの矛盾を解決しなければならないが、そのあたりはクリアをしているのだろうかと期待がつづく。あとは、暴れまわって、できれば恋もして、というのが、展開に望まれるところだ。そのあたりは、テンポよくつぎつぎにクリアされていく。いくつか哲学的(正確には一か所か)なセリフもあって、知的な満足も用意されている。

    最後にビックリな発見だったが、私の一押し映画『ジョジョ・ラビット』の監督で主演のタイカ・ワティティが、癖のある悪役で出演していたことだった!
    この映画の空間もさることながら、ワティティのいる枠を飛び越えた空間の存在にうらやましさを感じた。

    © 2021.Hiroshi Sano

    監督 ショーン・レヴィ
    公開 2021年8月


  • 映画『明日に向かって笑え!』

    映画『明日に向かって笑え!』


    映画『明日に向かって笑え!』

    面白い。正統的な映画。
    アルゼンチンの政治や経済の事情がやや分かりにくいバックグラウンドとなっているが、それもはじめの数分間がすぎれば、まっとうな犯罪映画になっている。
    きちんと伏線をおいて、はらはらさせながら展開していくのは、なんとまっとうな映画だ、と感心させられる。
    登場人物が、自分たちはペロニスタであり、無政府主義者であり、奪われたものを自分の力で取り戻す、といって、これから行うある犯罪行為を正当化する。このメンタリティーの陰影が、アルゼンチン映画らしいということもできる。

    監督 セバスティアン・ボレンステイン
    公開 2021年7月


  • 映画『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』

    映画『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』


    映画『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』

    お約束ごとのオシリぷりぷりが数回出てくるのはご愛敬で受け取るとして、しんちゃんのすごさは、友達同士はもちろん、家族、世間、その他とのダイナミズムだ。
    「その他」が何かで、映画のテーマが決まるのだと推測するが、今回は学園という閉じ込められた空間が、やや映画の勢いをそいだのではないかと思った。(そんなに熱心な観客ではないが、かといって、なにも期待していないわけではない)

    監督 高橋渉
    公開 2021年7月

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  • 映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』

    映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』


    映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』

    映画のシチュエーションは、どこかの地方の畑の中のイオンモール(?)に設定されている。モールの中に高齢者のデイサービスがあって、主人公は臨時のバイトでそこに勤めている。
    モールだから、いろいろな人が出会う場所になっていて、そのいくつかがピックアップされて、映画の構成要素になっている。ただし、この映画では、単に「描きました」的になっていて、観る側のテンションが下がる。
    最後に、主人公が、音楽にあわせて自作の俳句を次から次に朗詠するのが、意外とイケてた。
    高校生たちに、俳句が広まっているというのが、前提の映画のようだが、世相を教えてもらった。以上。

    監督 イシグロキョウヘイ
    公開 2021年7月


  • 映画『竜とそばかすの姫』

    映画『竜とそばかすの姫』


    映画『竜とそばかすの姫』

    要するに、仮想デジタル空間のなかで、アバターを脱ぎ捨てて、コミュニケーションをとりたい相手に接することも、必要だ、ということのようだ。
    どちらかというと、クリエイティビティーが少なすぎる。唯一、それがあると感じられるのは、竜がじつは遠くで虐待を受けていた少年だった、という点だろうか。
    はじめから4分の3くらいまでは、脈絡もなく、必然性もなく、伏線とおぼしき場面をちらばせて、つながっていく。セリフにも深みが欠ける。
    宮崎駿やディズニーのアニメからや、「魔法少女まどか☆マギカ」かららしきキャラクターが、堂々と重要な脇役を演じている。これをオマージュとでも呼ぶのだろうか。筋みちにオリジナリティのダイナミックさが欠けているので、剽窃にしか見えないので、とまどったあげくに失笑してしまう。
    唯一のみどころは、Bellの歌謡ショーの部分だ。実際に歌っている中村佳穂には十分に惹きつけられた。
    それにしてもこの大作には、あざとさを感じてしまった。

    監督 細田守
    公開 2021年7月

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  • 映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』


    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    (C)Focus Features

    叙事詩のように、淡々と最後に再び現れる題名に向かって積みあがっていく映画だ。
    友人を死に追いやった男たちへの怒りと、復讐の道筋をつつむ心情は、深くて壮大だ。
    この無念をどう描いたらよいのかわからない、という迷いに突き動かされるようにこの映画は始まる。
    前半に描かれるのは、主人公の心情のありどころだが、心を、可視化すればこのような場面になる、という展開が、観る側をいやみなく引き付ける。
    中盤では、ひょっとしたら幸せになれるかもしれない、ボーイフレンドとのこころを通わせる時間がたたみかけるように映し出される。
    それが裏切られるところから、復讐劇は一気に進んでいく。
    そして、最後にすべての出来事が終わった時に、題名の意味が反転することになる。
    ただひとつの目的のために人生のすべてをかける主人公役のキャリー・マリガンの力は大きかった。悲しみの中に意志の強さと、怒りとを表現して映画をけん引する。その目にはさまざまな色彩の憂いがあった。
    この映画で唯一描かれていなかったのが、主人公の動機となった友人の死、だが、描かないことによって、観る側を最後まで引き付ける、という効果もあった。
    そのことによって、主人公の抑制された心情が深みと壮大さを勝ち得たのだと思う。
    (h.s)

    監督 エメラルド・フェネル
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『星空のむこうの国』

    映画『星空のむこうの国』


    映画『星空のむこうの国』

    (C)映画『星空のむこうの国』製作委員会

    最後の数カットがこの映画のキモで、ここで観客は、ああよかったと思う。ただし、そこにいたるまでは、低レベルの作り。
    俳優の演技のバランスが悪い。例えば、若い医師役の俳優がなぜこれほどテンションが高いのかは不明。
    複数の俳優が絡む場面では心情のレベルでかみ合っていない。
    ただし、最後の数カットでこの映画は成立したので、大まかにサマライズすると、二つのパラレルワールドを舞台として切ない若い恋のやり取りがある、が、実は第三のパラレルワールドで明るい未来を予想できる、という筋書きだ。
    シリウス流星群がきっかけ、という設定に出会ってしまったとたんに、陳腐な既視感が醸し出されるのが残念だ。

    (h.s)

    監督 小中和哉
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『共謀家族』は人間臭いがドライ!

    映画『共謀家族』は人間臭いがドライ!


    映画『共謀家族』

    ちょっとしたパズル感覚があるので、映画好きは引き付けられやすい筋立てだ。
    タイに住むある一家に起きる事件だが、主人公はもともとは中国からの移民だ。働きもので、町の人々からは信頼されている。そのあたりの生活の様子は、タイが舞台だとなかなか悟れないのでややまとめきれない印象だ。
    事件が起きて、家族が真相を隠すためにまとまる、といったところから一気に物語は進んでいく。
    映画好きの主人公が、これまでに観た犯罪映画の知識を駆使して、警察の尋問をかいくぐって行く場面が、この映画の見どころとして設定されている。
    この映画を観る側も、ある程度の映画好きならば、とても共感できるようなシーンが連続する。
    取り調べるのはこわもての女性の警察署長で、実は、事件の発端である、一家に殺された青年は、実はこの女性が母親として甘やかして育てた実の息子という設定だ。この青年に暴行された娘の一家と、女性署長の対立がつよい感情の対立軸になって、終盤にむけて、生の対立にまで昇華する。
    もともとのインド映画のリメイクだということだ。リメイクにありがちな、ぎこちなさがひょっとして残っているのかもしれないと感じさせるところもある。
    生の人間の生死の対決や、民衆の暴動も巻き込んだ設定など、知的な謎解き風の展開なども含めて、なぜか、黒沢明を連想させた。
    隣人に愛されて、人のよい父親が、やがて理性に支えられた強い意志をもった存在へと変貌していく。そうした隠れたドラマもあるのだが、すじだてのかまびすしさに紛れているのがもったいないと言えるかもしれない。

    監督 サム・クァー
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『ブラック・ウィドウ』は家族の話?

    映画『ブラック・ウィドウ』は家族の話?


    映画『ブラック・ウィドウ』

    いくつもの山があって、バランスよくつながって、最後の悪の巣窟の撲滅につながっていく。
    まず、ブラック・ウィドウの幼少からの生い立ちと、数年ぶりに会った姉妹の闘いがあり、次に父親の脱獄を図るシーン、そして母親と再会するシーンが、ひとつひとつ趣のことなるアクションで連続していく。
    一番最後の、悪の本拠地を破壊するシーンはしつこくなく、嫌味なく、淡々とアクションが積み重なっていくのが程よいスリルで、演出のうまいところなのだろう。
    じつは、この映画は、スーパーヒーローもののアベンジャーズシリーズの間に挟まれる時期の話らしい。ので、アベンジャーズに描かれる突拍子もないアクションシーンと比べて、あえて張り合うこともない、といった認識でもあったのだろうか。
    テーマは家族の絆。主人公が幼いころ、ロシア側のスパイとして偽の家族を営んでアメリカで生活していたところから始まる。偽りの家族ではあったが、いかにして、家族の絆を確かめ合っていくのか、という道筋にそって映画は進んでいく。
    そして、物語を大きく動かしていくのが、悪の傭兵たちを、洗脳からの解放する薬品の争奪をめぐる戦いだ。まだ洗脳を解かれていない、傭兵たちと戦わなければならないシーンが初期から連綿と起きていく。悪の本拠地の破壊を、主人公たちの目的とするところから、ダイナミックさが増していく。後半、傭兵たちは薬品によって洗脳を解かれ、主人公は世界中に散らばる搾取され、傭兵とされた少女たちの居場所を突き止める。そして、本拠地の破壊につながっていく。
    なぜ、ながながとあらすじめいたことを書いたかというと、この映画の原動力のありかを示すためだ。
    もともと映画の力は流れの必然を設定するのとは別のところにもある。
    しかし、この映画はこうした緻密な筋立てによって、厚みを感じさせるものになっていた。

    監督 ケイト・ショートランド
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?

    映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?


    映画『アジアの天使』

    『アジアの天使』はガタピシしていた出だしがだんだん落ち着いてきて、恋愛ドラマに収れんしていく映画。
    一応「アジアの天使」が登場するので、看板は偽っていはいない。しかしでこぼこ感はずっとつづくので、ふさわしい題名は何だ、とか、三題噺ではないだろうか、とか、没入しきれないで観てしまうきらいはある。
    主役の池松壮亮は感情を爆発させる場面は違和感があった。いづれも主題(たぶん他者を大切にする愛情)とは関係ない場面だったので主人公のエキセントリックさを強調するだけに終わった。
    オダギリジョーは、(おそらく)アドリブのシーンでハシャギ過ぎが鼻についた。
    一方韓国の俳優はいづれも見事で魅力があった。
    しかし、ガタピシした感じはやがてこの映画の豊な可能性として余韻を残していく。
    ストーリーは日本人の兄弟が、韓国人の家族とたまたま同じ列車に乗り合わせて、その墓参りについていくというもの。連れの子どもがオシッコをしたくなったり、韓国人のヒロインがお腹が痛くなったり、韓国人のおばさんの家で歓待されたりする。途中ヒロインが 所属する芸能プロダクション社長とのつらいエピソードが入ったりする。
    いちおう映画の社会性を担保する骨組みの要素(妻の死、悪徳芸能プロ社長、つらいソウルでの生活)は入っている。
    しかし、映画のメインの旅自体には、韓国の家族の側にも、日本人の側にも、理由も必然性もなかったことが明かされる。
    だから、出来事の断片をつなぎ合わせた、だけ、という痕跡をのこしつつ、じつはこれこそが映画の隠れたテーマだったりする作品だ。
    そういういみでは、オダギリジョーのハシャギ過ぎのアドリブは、映画全体の意味を暗示している。
    唐突なお笑い芸人のような天使ももう一つの隠れたテーマだ。
    誤解を恐れずに言えば、出たとこ勝負を力業でまとめあげた映画、と言えると思う。ここには洗練はないが、可能性はたしかにある、という意味で、観た後、腑に落ちた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 石井裕也
    公開 2021年7月

    評価
    4/5

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    https://youtu.be/ld0C39UiAO8

    © 2021.Hiroshi Sano

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    © 2021.Hiroshi Sano