カテゴリー: 映画

  • 映画『あなたの番です 劇場版』

    映画『あなたの番です 劇場版』

    クリスティの「オリエント急行殺人事件」のような、密室殺人事件を思わせるような趣向の映画だが、眼目は殺人の方法よりは、犯人と動機。
    原案の秋元康の作品は、「NG」というテレビドラマが面白かったので、この映画も期待して観に行った。舞台は外洋に出れる大きな船の中。
    シリアスな推理ものではなくて、密室殺人をネタにした、ハチャメチャ劇に近いが、すごいところは、きちんと整えるべきところは整えていること。狂言回し役の田中圭もあと少しで過剰、というレベルで抑えられていた。
    多用な人物が登場するが、ちょうど将棋の駒のように役割を与えられていて、全体の枠にきちっと収められている。たとえば、犯人には特異な性癖があるが、それを説明する駒役がいるといった具合。
    この映画の予告編にはまったく食指が動かなかったが、本編には安易さがなかったのは意外だった。ご都合主義的な駒もあったがそれも必要。
    冒頭の険悪なマンションの管理組合の会合から、なぜ急にそのメンバーが船上の結婚式パーティーにいるのかも、映画にとってはなんでもアリの切り札だと教えてくれる。気楽に観ればいいのだ、という思いで席についたが、最後まで裏切られることなく観れた。

    ©hiroshi sano

    監督 佐久間紀佳
    公開 2021年12月


  • 映画『ラストナイト・イン・ソーホ』

    映画『ラストナイト・イン・ソーホ』

    映画『ラストナイト・イン・ソーホ』

    (C) 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

    監督 エドガー・ライト
    公開 2021年12月


  • 映画『囚人ディリ』

    映画『囚人ディリ』


    映画『囚人ディリ』

    刺されても蘇り、瀕死の体の上に十人(?)の賊が覆いかぶさっても、こぶしの一突きで蹴散らしてしまう、これぞヒーローの王道をいく映画!
    一番初めのシーンがマザーテレサの孤児院から始まるので、思わず背筋をのばしながら見始めたが、次のシーンは警察の特殊部隊による麻薬の押収と、ギャング内部の内通者さがしや、悪徳警察幹部の登場などがあって、いよいよギャングの反撃が始まる。とここまでが、ヒーロー登場までの前段階。

    この類の映画だと、単身敵陣に赴くヒーローという設定を何度もみたが、この映画は闘いの場所が、竹林だったり山の上だったり、警察署本部だったりする。しかも、一夜の出来事という設定なので、いつも暗くて分かりにくいが、それはそれでスリルを醸し出すのに必要だったのだろう。
    主人公は刑期を終えた囚人で、行方不明だった娘に会いに行く途中だった。
    本来ならば、明朝10時の約束で娘にあうはずだったが、運悪く、毒を盛られて、かつ今にもギャングの復讐を受けそうな警察官の一団をトラックに乗せて、病院に運ぶはめになってしまう。
    危機に陥るたびに、娘との再会を思って奮い立つシーンが出てくるが、それもいやみなく、かつ全体のトーンのなかで、人間臭さを程よくだして、ヒーローがヒーローたる所以を説明していた。

    しかし、こんなにすごいヒーローなのに、その活躍の報酬があまりにも少ないのは、インド的な世情なのか、とちょっと悲しくなる。
    最後のシーンも、車がビュンビュン通る6車線の高速道路をとぼとぼと歩く主人公の後ろ姿だった。

    (h.s)

    監督 ローケーシュ・カナガラージ
    公開 2021年11月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『そして、バトンは渡された』

    映画『そして、バトンは渡された』


    映画『そして、バトンは渡された』

    いったい何がテーマなのか分からないまま観た。途中、自由に生きる、ということかな、とも思ったが、違っていたし、結論を言えばテーマなどと小難しいものはなかった。
    題名はそもそも誤解招いていた。強いてつけさせてもらうなら、「デタラメ女と泣き虫娘」がぴったりだと思う。映画の結論もこの題名なら、十分に効果的に伝わったと思う。
    最後の方に、フラッシュバック的に、いろいろな事情が説明されるが、遅すぎる。そのころには観ている方は、映画の不備だと勝手に納得してやや惰性的に観ることになる。

    監督 前田哲
    公開 2021年11月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『カオス・ウォーキング』

    映画『カオス・ウォーキング』


    映画『カオス・ウォーキング』

    (C)2021 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved

    出だしは、自然ゆたかなアメリカのどこかを思わせる風景のなかで、やや風変りな男だけの集団の村がある。と、ここまでで、M.ナイト・シャマラン監督の「ヴィレッジ」を思わせる。集団にただよう閉塞感は同じだ。ただし、この映画の展開の中には、シャマラン映画についてまわる「寸詰まり」感がない、のが最終的に分かって高得点をあげたいと思う。

    この集団の男たちは、考えていることが他者に分かってしまう。それはそれで何かの暗喩らしい、と思う。実は、彼らは地球からの移住者たちで、この惑星の力で、考えがそとに漏れ出てしまう、ということになってしまったらしい。

    そこに、地球から後続の移住集団が近づいてくる。そして先遣隊の少女が偶然村にたどりついてしまう。

    だんだん、いくつかのことが分かってくる。たとえば、他にも集落があること。男は、他者に考えを読まれてしまう、という風に変異してしまうが、女にはそういう変異が起きていないので、女は考えを他者によまれてしまうことはない。

    男と女の違いを、こんな風に際立たせて話を進めていくこと自体、カリカチュアで、本来なら物議をかもしそうだ、と私は心配するが、ところがこの映画はSFで、ここは地球ではない、ということで、話はなめらかに進んでいく。

    いずれにせよ、このカリカチュアは成功したと思う。し、SFとしての最低限の満足もあった。

    ©hiroshi sano

    監督 サム・クァー
    公開 2021年7月

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  • 映画『燃えよ剣』

    映画『燃えよ剣』


    映画『燃えよ剣』

    原作は司馬遼太郎。
    映画は岡田准一扮する土方歳三の回想から始まる。桜田門外の変をさかいに明治維新前後の、激動の時代に突入していく。
    その時代、今の東京都日野市に生まれ育った土方がやがて近藤勇と知り合い、侍になりたい一心で剣の腕をみがき、幕臣に登用され、新選組で活躍し、やがて逆賊として官軍に追われて北海道で最後を迎える。
    新選組が関わる池田屋事件、蛤御門の変、大政奉還、戊辰戦争、ほとんどのイベントが年号付きで描かれていく。
    原作がしっかりしていそうなので、土方の生い立ちから、歴史的イベントにいたるまで、安心して観ていられた。
    しかし、全体のバランスの良さをみると、原田監督の力技がすごかったのではないかと思わせる。
    岡田准一をはじめ、ほとんどの俳優が、きっちり役柄にはまってもいて、それの見どころになっていた。
    ただ、正直いって、安心して観てはいたものの、幕末の政変の複雑な事情の説明は、ほとんど理解できなかった。尊王攘夷の内実がどんどん変わっていったり、朝廷の変節など、こみいった歴史的な叙述があるが、こちらの理解が追い付かないはやさで映画は進んでいた。
    しかし、繰り返すが、骨組みの堅固さは感じられたし、突出した感情の起伏もなく、岡田准一も過剰にならず、時代考証的な満足感もあって、意外に骨太のしっかりした映画だった。
    ただ、原作に関心があっても読んでいなかったので、この映画を、本を読むようにして観ていたのではないか、と今思う。
    原田監督はスケールお大きな映画をいつもつくるが、初期の映画のおもしろさとならべて、また味わいのある映画をつくった思った。

    監督 原田眞人
    公開 2021年11月


  • 映画『キャッシュトラック』

    映画『キャッシュトラック』


    映画『キャッシュトラック』

    (C) 2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

    予想以上に面白い映画だった。
    題名から、現金輸送トラックの話からとおもったら、そこは舞台で、本筋は男の復讐劇だった。話は入り組んでいるので、時間が前後したりして進んでいく。
    出だしの2カットで事件の起因となる出来事を描写する。まず町の俯瞰があって、カメラがパンダウンするとそこは現金輸送車の基地だ。次のカットは輸送車内部の固定カメラになって、乗務員の乗り込みから、基地を出発して現金の強奪にあう一部始終を記録する。なぜか、安い予算の工夫がいっぱいの映画を思い起こした。
    一転して、007も顔負けの、主演ジェイソン・ステイサムのさまざまな表情を使った派手なタイトルが始まる。
    その後は、低いビート音を効かせた音楽が途切れることなくつづいて、緊迫した映像を載せていく。
    要所要所にいつか見たようなストーリー展開がある。FBIも出てくるし、街のギャングも絡んでくるが、主人公にとっての本当の敵は、軍隊あがりの強盗集団と裏切り者だ。トランプのカードのようにいつもの要素を組み替えて観客の前に提供している、だけという見方のあるかもしれないが、今回の面白さは、どこかに秘密があるような気がする。
    まず、容赦のない殺しが行われるが、血の匂いがない。
    時間の流れどおりに描いていけばダレてしまう展開を、軍隊くずれの強盗集団の現金強奪計画についていえば、プランの段階であらゆる予想をさせて、かつ実際の犯行の合間に組み入れて説明ている。それが、主人公の側の事情のカットバックの手法と複雑に絡み合って、後半にいたって、合致する、といった構造になっている。この構造自体が多分、面白さの協力な味付けになっていると思う。
    ただし、突然出現する軍隊あがりの集団に無理があったり、主人公が、前触れもなく最後の最後で復讐を遂げてしまうなど、強引さがあるが、構成の強さが勝っているのでそうした欠点はあまり意味のないものになってしまっている。
    これは私の推測だが、監督はこれまでのジェイソン・ステイサムの映画をよく研究している。そして、まったくこわもてに見えないこの俳優をふかく信頼して映画を撮ったと思う。

    監督 ガイ・リチー
    公開 2021年11月


  • 映画『最後の決闘裁判』

    映画『最後の決闘裁判』


    映画『最後の決闘裁判』

    前知識なしで、映画を観てなるべく感じたままを書くようにしているが、この映画についてはその禁を犯して、ちょっとだけ制作のいきさつを事前に知ってしまった。
    それによると、ベースにあるのは黒沢明の「羅生門」。つまり、一つの出来事について三者三様のとらえ方があることを映画化すること。題材はひとりの女性を巡って二人の男が決闘すること。マット・デーモンとベン・アフレックが熱心に企画を持ち込んでリドリー・スコット監督が腰をあげた、ということらしい。
    で、映画の感想はというと、、
    迫力のある決闘シーンや中世の田園や泥だらけのパリなど、見どころもあって一応最後まで観てしまった。ただどこにも感動がなかったので、とまどって評をなかなか書くことが出来なかった。
    また事前に事情を知ったので、同じシーンをちょっとだけ演出を変えて再撮影すればよいので、ボリュームのわりには手間や予算が省ける、など余計なことを考えてみていた。
    しかし、いまになって考えると、根本的な欠陥があるかもしれないと思うようになった。
    この映画は簡単に言えば、男Aと男Bが、女Cに対してある思いをいだくが、その思いとは全く別のところに女Cの思いはあった、ということらしい。もっと簡単に言えば、性行為についてのAとBの思い込みは、女Cと全く相いれない、ということのようだ。つまり、全く理解力のない男への啓蒙の映画となっている。ので、そういう啓蒙映画としてつくられたのなら、成立はしている。
    ただし、三者三様の見方があるという永遠の真実は、深遠なテーマでもあって、それを提示する映画にはなっていなかった。
    仮定の話だが、男二人の心理をもうすこし深めていれば、啓蒙であることも成功したし、男たちの側にもなんらかの運命的な拘束があって、どうにも動かせない、3人の事情認識がきちんと描かれて、深遠な真実についての余韻を観客に残すことができたかもしれない。

    監督 リドリー・スコット
    公開 2021年10月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『ひらいて』

    映画『ひらいて』


    映画『ひらいて』

    観始めてすぐに、わぁ~ドラマが始まった!と感激した。
    ドラマはあるがストーリーはない。
    フラッシュバックもないし、謎解きもないし、展開を正当化する解説もない。
    なぜなら、主人公の少女は気持ちのままに動いているから。
    そのくせ、好きになった男子生徒からは、うそを言っているといわれてしまう。
    ここにあるのは、こころが躍動するドラマだ。行き違いや挫折はある。うそもあればはかりごともある。苦悩もあれば、はい出せない穴におちこむ苦しみもある。救いがあるかどうかもわからない。
    しかし、こころの動きだけは、しっかりと描いている。
    主人公の活動もそれなりにあって、夜の学校に忍び込んで、意外な展開を見せるシーンや、好きになった男子生徒の彼女を篭絡するシーンなど、見どころもあって目が離せない。
    監督の手腕が大きいし、主役の山田杏奈の演技もよかったと思う。
    今後、高校を舞台にした青春映画を撮るなら、この映画も必ず観てからにしてほしいものだ。
    構成上でうまく使われていたのは、男子生徒の彼女が書いたいくつもの手紙だ。この手紙の文言がバックにながれることで、気持ちが飛躍したり、時間が戻ったりする。多分、言葉が豊かな原作のおかげで、映画の輝きが深みのあるものになっている。
    ただ、ひとこと言わせてもらえば、冒頭のカットと一番最後のカットが意味不明だった。それでも、この映画のよさは揺るがない。

    監督 首藤凜
    公開 2021年10月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『Dune/デューン 砂の惑星』

    映画『Dune/デューン 砂の惑星』


    映画『Dune/デューン 砂の惑星』

    水と緑のうつくしい惑星から、砂だらけの惑星に、皇帝の命令によってアトレイデス家が移住させられるところから物語は始まる。
    スコットランド風の星から、アラビアの砂漠のような星に舞台は移って一体なにをもって物語を面白くさせるのだろう、という疑念をまず払拭するのがこの物語の根底に課せられている。
    そして、この映画(英語の題名では、Dune part1)の最後の方では、たしかに面白そうだ、という結論に至っている。
    いろいろ人間臭い物語が絡み合っているが、デューンと呼ばれる惑星の面白さをいかに深めるかが、この映画の成功を支えていると思う。
    そこにあるのはただ砂だけで、入り込む生き物の水分を容赦なく奪っていく。砂はスパイスと呼ばれて、じつはいろいろ有用な物質である、という設定はあるものの、過酷な環境であることには変わりない。
    主人公役のティモシー・シャラメは頼りなげだが、内に複雑なひだを感じさせ、目覚めによって強さを付けていく役をこなしている。
    その母親役のレベッカ・ファーガソンは、謎を秘めた芯の強い女性を演じている。
    第2部をまだ見ていないが、この二人が、デューンという惑星の面白さを探索していく、というのが映画のキモなのではないかと思ってた。
    そうだとすれば、この第1部は成功している。
    というか、SF映画として、硬質な奥行きを感じさせてこれまでにない満足感を高めていた。

    監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
    公開 2021年10月

    © 2021.Hiroshi Sano