カテゴリー: 日本映画

  • 映画『あなたの番です 劇場版』

    映画『あなたの番です 劇場版』

    クリスティの「オリエント急行殺人事件」のような、密室殺人事件を思わせるような趣向の映画だが、眼目は殺人の方法よりは、犯人と動機。
    原案の秋元康の作品は、「NG」というテレビドラマが面白かったので、この映画も期待して観に行った。舞台は外洋に出れる大きな船の中。
    シリアスな推理ものではなくて、密室殺人をネタにした、ハチャメチャ劇に近いが、すごいところは、きちんと整えるべきところは整えていること。狂言回し役の田中圭もあと少しで過剰、というレベルで抑えられていた。
    多用な人物が登場するが、ちょうど将棋の駒のように役割を与えられていて、全体の枠にきちっと収められている。たとえば、犯人には特異な性癖があるが、それを説明する駒役がいるといった具合。
    この映画の予告編にはまったく食指が動かなかったが、本編には安易さがなかったのは意外だった。ご都合主義的な駒もあったがそれも必要。
    冒頭の険悪なマンションの管理組合の会合から、なぜ急にそのメンバーが船上の結婚式パーティーにいるのかも、映画にとってはなんでもアリの切り札だと教えてくれる。気楽に観ればいいのだ、という思いで席についたが、最後まで裏切られることなく観れた。

    ©hiroshi sano

    監督 佐久間紀佳
    公開 2021年12月


  • 映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?

    映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?


    映画『アジアの天使』

    『アジアの天使』はガタピシしていた出だしがだんだん落ち着いてきて、恋愛ドラマに収れんしていく映画。
    一応「アジアの天使」が登場するので、看板は偽っていはいない。しかしでこぼこ感はずっとつづくので、ふさわしい題名は何だ、とか、三題噺ではないだろうか、とか、没入しきれないで観てしまうきらいはある。
    主役の池松壮亮は感情を爆発させる場面は違和感があった。いづれも主題(たぶん他者を大切にする愛情)とは関係ない場面だったので主人公のエキセントリックさを強調するだけに終わった。
    オダギリジョーは、(おそらく)アドリブのシーンでハシャギ過ぎが鼻についた。
    一方韓国の俳優はいづれも見事で魅力があった。
    しかし、ガタピシした感じはやがてこの映画の豊な可能性として余韻を残していく。
    ストーリーは日本人の兄弟が、韓国人の家族とたまたま同じ列車に乗り合わせて、その墓参りについていくというもの。連れの子どもがオシッコをしたくなったり、韓国人のヒロインがお腹が痛くなったり、韓国人のおばさんの家で歓待されたりする。途中ヒロインが 所属する芸能プロダクション社長とのつらいエピソードが入ったりする。
    いちおう映画の社会性を担保する骨組みの要素(妻の死、悪徳芸能プロ社長、つらいソウルでの生活)は入っている。
    しかし、映画のメインの旅自体には、韓国の家族の側にも、日本人の側にも、理由も必然性もなかったことが明かされる。
    だから、出来事の断片をつなぎ合わせた、だけ、という痕跡をのこしつつ、じつはこれこそが映画の隠れたテーマだったりする作品だ。
    そういういみでは、オダギリジョーのハシャギ過ぎのアドリブは、映画全体の意味を暗示している。
    唐突なお笑い芸人のような天使ももう一つの隠れたテーマだ。
    誤解を恐れずに言えば、出たとこ勝負を力業でまとめあげた映画、と言えると思う。ここには洗練はないが、可能性はたしかにある、という意味で、観た後、腑に落ちた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 石井裕也
    公開 2021年7月

    評価
    4/5

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    https://youtu.be/ld0C39UiAO8

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  • 映画『地獄の花園』

    映画『地獄の花園』


    (C) 2021『地獄の花園』製作委員会

    映画『地獄の花園』

    OLの社会には、カタギと、その筋のOL、という2種類がいるらしい。
    主人公の永野芽郁が、ふつうのOLであることを楽しみに会社に通っているが、ある日の更衣室で、ぶっ飛ばされるOLが、ロッカーをへこませる、という惨事に遭遇する。
    というところから、映画は始まる。
    「その筋」というのは、かつて暴走族だったり、ヤンキーだったりエトセトラ、だったりということらしい。その彼女らが、社内はもちろん、会社の枠を超えて、抗争を繰り返して、だれが最強のトップなのかを決めようとしているらしい。
    映画の半分は、そうした女子プロレスリングの世界で、はでなアクションシーンがつぎつぎに続く。
    菜々緒は、ここぞとばかりみどころをつくるし、大島美幸が意外にはまっているのがおかしい。
    ただ役者をそろえているわりには、花園の花を感じることろが全くない。映画の出だしの3カットくらいで、フツウの会社の部分がチャチだし、あこがれの森崎ウィンはぼんやりしてステキさがゼロだし、全体の計算欠如が露呈する。
    ただ、このところ激高もの役がつづいているせいか、広瀬アリスだけが、息遣いの荒さがつたわってきて、だれが主役なのか迷うほどだった。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 関和亮
    公開 2021年5月

     

    評価
    3.4/5

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  • 映画『街の上で』はちょっと注目!

    映画『街の上で』はちょっと注目!

    佐野 ヒロシ

    (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

    映画『街の上で』

    この映画の評が何日も言葉にならなかった。それほど印象深く、おもしろさも一筋縄ではない映画だ。映画作りが劇中に行われていて、そんな多重構造からの連想は、ホラーコメディー「カメラを止めるな」につながるが、観る方が受けたインパクトは「カメ止め」をしのぐ大事件だ。

    約5つの恋話が盛り込まれていると思う。前半散りばめられるそれらの恋の伏線が、後半うまく結実して、多少の映画好きなら観て損はない。

    中盤、劇中の映画監督が映画論をちらと語り、場面がかわって、主人公が、ながながしい恋話のやりとりをする場面があるが、それらがワンパッケージだとすると、ここを中心に映画の撮影を進めたのかもしれない、といった、映画を分解する別の楽しみもある。

    なによりスゴイのは、登場するすべての脇役のバランスがよくて、あたりはずれが無いということだ。

    出だしは、暗い気分の表現だから、うっとうしいが、全体を観れば、面白み満載の映画だと思った。

    ただ蛇足ながら、主役の脱力系はこの映画の柱ではあるが、最後まで脱力は、この映画の印象度を時間とともに浸食している気がした。(どこかで、強い見せ場があってもよかったかも)

    (h.s)

    監督 今泉力哉
    公開 2021年4月

     

    評価
    4.3/5

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  • 映画『BLUE/ブルー』

    映画『BLUE/ブルー』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2021『BLUE/ブルー』製作委員会

    映画『BLUE/ブルー』

    はじめから、特筆すべき質感をもってはじまっていく映画だった。カメラワーク、編集、人物登場、演出、がうまく絡み合って緊張を保っている。グローブからはじまり、シャドウボクシングで終わる、はじめから終わりまで、ボクシング愛の映画だ。

    だからといって、私のようなボクシングには無縁な人間も、最後まで楽しめた。

    ここには愛憎の激しさも、はげしい闘いのカタルシスも、希薄だ。というか、負けてばかりの松山ケンイチを評して、東出昌大が、あの人は強かった、というシーンが唯一、感動のシーンだし、はじめから、及び腰気味の柄本時生がぐんぐん強くなるのが、唯一カタルシスと言えばカタルシス。で、味の濃さを例えれば、お茶漬け程度。

    それでも、質感がおもしろい映画になったのは、結局のところ、ボクシングジムのこまかい現実を拾った、「ボクシングあるある」、つまりこんなこと、あんなことがある、という映画だったからだと思う。

    出演は、松山ケンイチが、試合に出れば負けてばかりのボクサー。東出昌大は、チャンピオンをねらうボクサーだが、脳にダメージを抱えている。その二人に関わり、心配してただ見守るだけしかできない木村文乃。この三人が恋愛感情を交錯させるが、そちらに振れることなく、あくまでボクシング中心で描かれていく。そこに、脇役で柄本時生が、かっこよくなりたい、という理由だけで、ボクシングジムに入ってくる。

    3人の三角関係は宙ぶらりんのまま続くが、その柄本だけが、ボクシングの才能を開花させていく、という内容になっている。

    だから、筋立てがあるとしたら、柄本の役柄が筋立てになっている。ほかの登場人物は筋立てとしては弱いし、終わり方も不親切だ。登場人物はすべてボクシングを愛しているが、それよりも監督のボクシング愛は確実に伝わるようなつくりにはなっていた。

    (演技をしていたのはセリフのある人間だけで、その他の人物は演技をしない演技だったのが、印象深かった)

    (h.s)

    監督 吉田恵輔
    公開 2021年4月

     

    評価
    4/5

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  • 映画『騙し絵の牙』

    映画『騙し絵の牙』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2021「騙し絵の牙」製作委員会

    映画『騙し絵の牙』

    最後まで飽きさせないで見せた。主要な登人物のそれぞれが、きっちりと役柄を演じていた。

    映画として違和感なく、展開もテンポよく心地よい。カメラもセットもすんなり納得できた。ドンデン返しもあり、面白かった、という印象でスクリーンを後に出来た。

    だが、残念ながら、感動がない。筋書きから、言えば、最後の最後に、「騙されつづけてきた」(と自分で思っている)松岡茉優が一矢報いるシーンがそれにあたるが、かなり弱い。

    この映画では、大泉洋が「みかけよりは、ビッグな人物」(と私は勝手に規定するが)を演じているが、本当はそこのところが、演じきれていなかったのかもしれない。と、いうか、大泉の持ち味は、そんなところにないし、なくてもよい、というのが、彼の作品を好む観客の心情ではないだろうか。

    というようなわけで、彼が、ビッグを演じ切れていなかったせいで、せっかくの感動シーンがまったく作用しなかった。

    原作もよかったのかもしれないが、監督の綿密な技がある作品だと感じられた。

    (h.s)

    監督 吉田大八
    公開 2021年3月

    評価
    4/5

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  • 映画『劇場版 奥様は、取り扱い注意』

    映画『劇場版 奥様は、取り扱い注意』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

    映画『劇場版 奥様は、取り扱い注意』

    綾瀬はるかはそこそこ演じている。西島秀俊もそこそこ演じている。だったら、問題ないのでは?(注)

    綾瀬は国際的に活躍するアクション系スパイ(ボンドみたいな)らしい。西島もそこそこ強くて、綾瀬を管理する立場の公安の人間。
    綾瀬が頭部に銃弾を受けて、記憶を失ってから、二人は夫婦となって、ある地方都市を舞台にした、国際的マネーロンダリングの陰謀に巻き込まれていく、というお話。

    お話自体に無理がある、というか、練ったあとが見られない、というか、設定と配役が薄い。

    綾瀬はるかが記憶を失っているかぎり、西島との夫婦生活は、うつくしい海のある町で、穏やかに過ぎていく。綾瀬は年齢に応じたそれなりの光彩を放っている。そのシーンだけで、映画として成立している。二人が暮らす家も、センス良く作りこまれている。

    二人をとりまく陰謀を体現するはずの役者も、その演技もシチュエーションも、薄い。悪役たちも、手抜きで演じているように見える。

    薄い部分を省いたら、五分の一くらいの長さになってしまうのだろうが、その五分の一が、次の映画に、つながっていく、気がした。

    (h.s)

    (注)竹内まりや

    監督 佐藤東弥
    公開 2021年3月

     

    評価
    2.7/5

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  • 映画『まともじゃないのは君も一緒』

    映画『まともじゃないのは君も一緒』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

    映画『まともじゃないのは君も一緒』

    清原果耶と成田凌の出演なので、新しい世界でも広がるのかな、と観に行った。観終わってすぐに忘れかけた。ざんねんだが印象が薄い。

    テーマは、大人の恋愛観(小泉孝太郎)に対して、恋愛無垢な女子高生と恋愛失敗だらけの塾講師が立ち向かう、という筋書き。

    ところどころに決めセリフがあって、観客にはうけていた。清原果耶は、恋愛を理解できないという役柄を、青春のとげとげしさも身にまとって、それなりに演じていたが、成田凌は、すでに大人にかなりなっているので、ズルサをかもしていて、混乱させる。

    もしかしたら、面白い映画になったかもしれない筋立てだったが、コケてしまった(ように見える)のは、ひとえに、出だしの二つのシーン、清原果耶と成田凌のキャラクターの描き間違いからきているのではないか、と思った。

    本当は、はじめのあのふたつの時間は、はっきりしたキャラクターづくりに使うべきだった。

    (h.s)

    監督 前田弘二
    公開 2021年3月

    評価
    3/5

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  • 映画『ライアーXライアー』

    映画『ライアーXライアー』

    佐野 ヒロシ

    (C) 2021『ライアー×ライアー』製作委員会 (C) 金田一蓮十郎/講談社

    映画『ライアーXライアー』

    親同士が再婚したので、姉弟になってしまった、男女の青春恋愛ドラマ。

    渋谷の雑踏で、二人がぶつかるシーンからはじまるが、ある事情、という設定ではあるものの、つくりの悪さから、ヒロインとこれから観客として付き合うのか、とシラケル思いが湧く出だしの悪さ。

    次のシーンにすぐ登場する堀田真由は、個人的には、応援したいカワイさを期待したいのに、大学生の設定とは思えない濃すぎるメークで台無し。

    と、ここまでは観る側の勝手な思い込み。

    ところが、ギャル役になりきる、森七菜が徐々に本領発揮で、リアリティを一身に集めることに成功。物語は軌道にのって、切なさぎりぎりの展開が続いていく。

    カメラワークにもたすけられて、ラブコメディーとして、なめらかに進行。

    非モテのヒロインが、超モテに突如、飛躍したりもするが、要は、もともと好きだった同士が、いろいろな事情で、というオチ。

    見かけの姉弟は、思い返せばよくある設定だが、いくつかの仕掛けが効いて、ハッピーエンドにいたる明るい青春ものになった。

    (h.s)

    監督 耶雲哉治
    公開 2021年2月

     

     

    評価
    3/5

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  • 映画『殺さない彼と死なない彼女』

    映画『殺さない彼と死なない彼女』

    佐野 ヒロシ

    映画『殺さない彼と死なない彼女』

    監督のセンスの良さが、最後まで力強い。ツーショットで会話がつづくシーンの繰り返しも面白い。たぶん原作の力か、高校生という人種の生態がこまかくリアルに拾われていて、いやみがない。
    なぜか、ぼやけさせた画像が長いのが、不必要で疲れる。
    しかし、総てをひっくるめて、かなり質の高い青春映画だ。
    『カメ止め』は、センスが悪い、そして、プロットの意外性一本槍なのに比べると、まったく正反対だが、面白く興奮する映画だ。
    (撮影に詳しそうな監督、ということで、なるほどと思わせるところが多々ある。ただし、新人がおもちゃをいじくっているようなところがあって、味付けにはなっているが、粗すぎ。音声の処理もイマイチ。ただし、その総てをひっくるめて、才能の噴出に出会ったような快感があった)
    とここまで書いて、静かに振り返ると、「八千代君」、「キャピ子」、「死なない彼女」の3つの物語の合成だと分かる。「死なない彼女」がメインのストーリーとなっているが、他のふたつがあるおかげで、全体に深みがでている。原作はSNS漫画家(?)の『世紀末』氏。きつい会話がほのぼのとした線の漫画で展開する。この映画は、その「きつい会話」と「ほのぼのとした漫画」の間の実写として奇跡的に成立している。
    セリフはどうも、原作からそっくりとっているようだ。ただし、原作はショートストリーリの集合なので、映画として長尺な作品に完成させた手腕は監督のものだ。
    登場人物がそれぞれ生きている。それに原作者の世紀末氏、それに監督の小林氏、のごちゃまぜ感がこの映画の魅力を高めている。いまから考えると「細部が生きている」、とでも表現したい映画だ。
    (hs)

    監督 小林啓一
    公開 2019年11月

    評価
    4.5/5

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