投稿者: 佐野ヒロシ

  • 映画『竜とそばかすの姫』

    映画『竜とそばかすの姫』


    映画『竜とそばかすの姫』

    要するに、仮想デジタル空間のなかで、アバターを脱ぎ捨てて、コミュニケーションをとりたい相手に接することも、必要だ、ということのようだ。
    どちらかというと、クリエイティビティーが少なすぎる。唯一、それがあると感じられるのは、竜がじつは遠くで虐待を受けていた少年だった、という点だろうか。
    はじめから4分の3くらいまでは、脈絡もなく、必然性もなく、伏線とおぼしき場面をちらばせて、つながっていく。セリフにも深みが欠ける。
    宮崎駿やディズニーのアニメからや、「魔法少女まどか☆マギカ」かららしきキャラクターが、堂々と重要な脇役を演じている。これをオマージュとでも呼ぶのだろうか。筋みちにオリジナリティのダイナミックさが欠けているので、剽窃にしか見えないので、とまどったあげくに失笑してしまう。
    唯一のみどころは、Bellの歌謡ショーの部分だ。実際に歌っている中村佳穂には十分に惹きつけられた。
    それにしてもこの大作には、あざとさを感じてしまった。

    監督 細田守
    公開 2021年7月

    私的オススメの映画


  • 映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』


    映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

    (C)Focus Features

    叙事詩のように、淡々と最後に再び現れる題名に向かって積みあがっていく映画だ。
    友人を死に追いやった男たちへの怒りと、復讐の道筋をつつむ心情は、深くて壮大だ。
    この無念をどう描いたらよいのかわからない、という迷いに突き動かされるようにこの映画は始まる。
    前半に描かれるのは、主人公の心情のありどころだが、心を、可視化すればこのような場面になる、という展開が、観る側をいやみなく引き付ける。
    中盤では、ひょっとしたら幸せになれるかもしれない、ボーイフレンドとのこころを通わせる時間がたたみかけるように映し出される。
    それが裏切られるところから、復讐劇は一気に進んでいく。
    そして、最後にすべての出来事が終わった時に、題名の意味が反転することになる。
    ただひとつの目的のために人生のすべてをかける主人公役のキャリー・マリガンの力は大きかった。悲しみの中に意志の強さと、怒りとを表現して映画をけん引する。その目にはさまざまな色彩の憂いがあった。
    この映画で唯一描かれていなかったのが、主人公の動機となった友人の死、だが、描かないことによって、観る側を最後まで引き付ける、という効果もあった。
    そのことによって、主人公の抑制された心情が深みと壮大さを勝ち得たのだと思う。
    (h.s)

    監督 エメラルド・フェネル
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『星空のむこうの国』

    映画『星空のむこうの国』


    映画『星空のむこうの国』

    (C)映画『星空のむこうの国』製作委員会

    最後の数カットがこの映画のキモで、ここで観客は、ああよかったと思う。ただし、そこにいたるまでは、低レベルの作り。
    俳優の演技のバランスが悪い。例えば、若い医師役の俳優がなぜこれほどテンションが高いのかは不明。
    複数の俳優が絡む場面では心情のレベルでかみ合っていない。
    ただし、最後の数カットでこの映画は成立したので、大まかにサマライズすると、二つのパラレルワールドを舞台として切ない若い恋のやり取りがある、が、実は第三のパラレルワールドで明るい未来を予想できる、という筋書きだ。
    シリウス流星群がきっかけ、という設定に出会ってしまったとたんに、陳腐な既視感が醸し出されるのが残念だ。

    (h.s)

    監督 小中和哉
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『共謀家族』は人間臭いがドライ!

    映画『共謀家族』は人間臭いがドライ!


    映画『共謀家族』

    ちょっとしたパズル感覚があるので、映画好きは引き付けられやすい筋立てだ。
    タイに住むある一家に起きる事件だが、主人公はもともとは中国からの移民だ。働きもので、町の人々からは信頼されている。そのあたりの生活の様子は、タイが舞台だとなかなか悟れないのでややまとめきれない印象だ。
    事件が起きて、家族が真相を隠すためにまとまる、といったところから一気に物語は進んでいく。
    映画好きの主人公が、これまでに観た犯罪映画の知識を駆使して、警察の尋問をかいくぐって行く場面が、この映画の見どころとして設定されている。
    この映画を観る側も、ある程度の映画好きならば、とても共感できるようなシーンが連続する。
    取り調べるのはこわもての女性の警察署長で、実は、事件の発端である、一家に殺された青年は、実はこの女性が母親として甘やかして育てた実の息子という設定だ。この青年に暴行された娘の一家と、女性署長の対立がつよい感情の対立軸になって、終盤にむけて、生の対立にまで昇華する。
    もともとのインド映画のリメイクだということだ。リメイクにありがちな、ぎこちなさがひょっとして残っているのかもしれないと感じさせるところもある。
    生の人間の生死の対決や、民衆の暴動も巻き込んだ設定など、知的な謎解き風の展開なども含めて、なぜか、黒沢明を連想させた。
    隣人に愛されて、人のよい父親が、やがて理性に支えられた強い意志をもった存在へと変貌していく。そうした隠れたドラマもあるのだが、すじだてのかまびすしさに紛れているのがもったいないと言えるかもしれない。

    監督 サム・クァー
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『ブラック・ウィドウ』は家族の話?

    映画『ブラック・ウィドウ』は家族の話?


    映画『ブラック・ウィドウ』

    いくつもの山があって、バランスよくつながって、最後の悪の巣窟の撲滅につながっていく。
    まず、ブラック・ウィドウの幼少からの生い立ちと、数年ぶりに会った姉妹の闘いがあり、次に父親の脱獄を図るシーン、そして母親と再会するシーンが、ひとつひとつ趣のことなるアクションで連続していく。
    一番最後の、悪の本拠地を破壊するシーンはしつこくなく、嫌味なく、淡々とアクションが積み重なっていくのが程よいスリルで、演出のうまいところなのだろう。
    じつは、この映画は、スーパーヒーローもののアベンジャーズシリーズの間に挟まれる時期の話らしい。ので、アベンジャーズに描かれる突拍子もないアクションシーンと比べて、あえて張り合うこともない、といった認識でもあったのだろうか。
    テーマは家族の絆。主人公が幼いころ、ロシア側のスパイとして偽の家族を営んでアメリカで生活していたところから始まる。偽りの家族ではあったが、いかにして、家族の絆を確かめ合っていくのか、という道筋にそって映画は進んでいく。
    そして、物語を大きく動かしていくのが、悪の傭兵たちを、洗脳からの解放する薬品の争奪をめぐる戦いだ。まだ洗脳を解かれていない、傭兵たちと戦わなければならないシーンが初期から連綿と起きていく。悪の本拠地の破壊を、主人公たちの目的とするところから、ダイナミックさが増していく。後半、傭兵たちは薬品によって洗脳を解かれ、主人公は世界中に散らばる搾取され、傭兵とされた少女たちの居場所を突き止める。そして、本拠地の破壊につながっていく。
    なぜ、ながながとあらすじめいたことを書いたかというと、この映画の原動力のありかを示すためだ。
    もともと映画の力は流れの必然を設定するのとは別のところにもある。
    しかし、この映画はこうした緻密な筋立てによって、厚みを感じさせるものになっていた。

    監督 ケイト・ショートランド
    公開 2021年7月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?

    映画『アジアの天使』は出たとこ勝負か?


    映画『アジアの天使』

    『アジアの天使』はガタピシしていた出だしがだんだん落ち着いてきて、恋愛ドラマに収れんしていく映画。
    一応「アジアの天使」が登場するので、看板は偽っていはいない。しかしでこぼこ感はずっとつづくので、ふさわしい題名は何だ、とか、三題噺ではないだろうか、とか、没入しきれないで観てしまうきらいはある。
    主役の池松壮亮は感情を爆発させる場面は違和感があった。いづれも主題(たぶん他者を大切にする愛情)とは関係ない場面だったので主人公のエキセントリックさを強調するだけに終わった。
    オダギリジョーは、(おそらく)アドリブのシーンでハシャギ過ぎが鼻についた。
    一方韓国の俳優はいづれも見事で魅力があった。
    しかし、ガタピシした感じはやがてこの映画の豊な可能性として余韻を残していく。
    ストーリーは日本人の兄弟が、韓国人の家族とたまたま同じ列車に乗り合わせて、その墓参りについていくというもの。連れの子どもがオシッコをしたくなったり、韓国人のヒロインがお腹が痛くなったり、韓国人のおばさんの家で歓待されたりする。途中ヒロインが 所属する芸能プロダクション社長とのつらいエピソードが入ったりする。
    いちおう映画の社会性を担保する骨組みの要素(妻の死、悪徳芸能プロ社長、つらいソウルでの生活)は入っている。
    しかし、映画のメインの旅自体には、韓国の家族の側にも、日本人の側にも、理由も必然性もなかったことが明かされる。
    だから、出来事の断片をつなぎ合わせた、だけ、という痕跡をのこしつつ、じつはこれこそが映画の隠れたテーマだったりする作品だ。
    そういういみでは、オダギリジョーのハシャギ過ぎのアドリブは、映画全体の意味を暗示している。
    唐突なお笑い芸人のような天使ももう一つの隠れたテーマだ。
    誤解を恐れずに言えば、出たとこ勝負を力業でまとめあげた映画、と言えると思う。ここには洗練はないが、可能性はたしかにある、という意味で、観た後、腑に落ちた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 石井裕也
    公開 2021年7月

    評価
    4/5

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    https://youtu.be/ld0C39UiAO8

    © 2021.Hiroshi Sano

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    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『夏への扉 キミのいる未来へ』

    映画『夏への扉 キミのいる未来へ』


    映画『夏への扉 キミのいる未来へ』

    なんとなく期待するところもあったので、この安作り感が納得できなかった。ストーリーはタイムトラベルもので、あちこち飛んで若干の破綻があっても受け入れる心づもりはある。
    主人公の山崎賢人は理系の天才には見えない、研究室も気の利いたガレージ程度にしか見えない。自分は大人で、君も大人になったら分かる、と義理の妹役の清原果耶に言うシーンがある。実はこのセリフは多分、のちのちの時間を扱う展開にとっては重要なセリフだったのだろうと思う。ところが、とても大人とは思えない幼さで、山崎賢人は騙されてしまう。しかも子どもっぽい反応をしている。
    脚本のミス、演出のミス、美術のミス、そしてキャスティングのミスがあったと思う。
    にも拘わらず最後まで観れたのは、原作者ハイラインへの期待だし、実際に、冬眠装置が確立した世界に、タイムトラベルの装置を持ち込むとどうなるか、というのがテーマだから、この着想にはとことん付き合ってみたいところだった。
    清原果耶は、17歳とその10年後の27歳を演じていたが、17歳の方はみずみずしさが欠けて物足りないかわりに、ほんの数秒の27歳の役では格段の存在感があったのは、この女優の持ち味の優れた面を垣間見させた。
    その他、藤木直人のロボット役は意外にはまっていた。また悪女役の夏菜が奥深い悪役で好演だった。
    その他は、主役の前述二人を含めてミスキャストだったが、特に、原田泰造は、あきらかに善人ぶって登場したところから、主人公の遺言を守る役の善人とは思えなくて、映画を観ている間中、いつ寝返るのか気が気ではなかった。とくに、その妻と狭いベッドの上で、清原果耶を子どもとして引き取るらしい相談をするシーンは、悪だくみをしているようにしか見えなかったので、私にとっては演出ミスが重なっように見えた。
    題名の「夏への扉」は、最後まで理解できなかった。それって、何?、といった感じ。また副題が「キミのいる未来へ」は、妹役の清原の方が、主人公役の山崎を追いかけるように冬眠に入るので(ということが最後に明かされるが)、なおさら理解しがたかった。

    監督 三木孝浩
    公開 2021年6月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『1秒先の彼女』は可愛いファンタジー

    映画『1秒先の彼女』は可愛いファンタジー

    映画『1秒先の彼女』は可愛らしいファンタジー

    (C) MandarinVision Co, Ltd

    映画『Ⅰ秒先の彼女』は、半分ファンタジーの爽やかな恋愛映画である。
    話の前半分はテンポもよく、ウィットにも富んで、楽しい。ドタバタチックな喜劇は、香港映画や韓国映画の脂ぎった匂いがないのが新鮮だ(これは台湾映画)。というか、よくよく練られた展開に、安っぽい日本映画の恋愛ものに比べて、うらやましくなる。
    後半は、「得した1日」での出来事と、そのSFチックな理由が明らかになるが、いまいちすんなり来ない。
    前半で、やもりの面白い話があったので、後半もいっそのこと幻想ということにする手もあったのに、あえて宇宙の謎みたいな屁理屈にしてしまったので、トーンが崩れてしまった可能性がある。
    女主人公を連れまわすシーンは少々説得力が不足していたと思う。
    そのあたりは観客に我慢をしいるわけだが、最後の最後は、主人公たちの出会いですくわれるし、ステキな最後になったと思う。
    主演はリー・ペイユー(パティ・リー)。スラっとした長身。婚期をあせりながら、郵便局の窓口に勤める役を上手に演じている。小さいころから反応がはやくてそそかしい。隣の席のかわいい同僚のデートの話に、かなり下品なツッコミを入れている。そのくせ、恋愛経験にとぼしく、純心で、さわやかで、日々つつましく過ごしている。そうした憎めない日常を演じるのにこれ以上ない適役のように思えた。

    映画『1秒先の彼女』予告編

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『Mr.ノーバディ』

    映画『Mr.ノーバディ』


    映画『Mr.ノーバディ』は中高年の夢物語

    中高年の夢物語。
    イントロは、主人公がいかに「普通」か、が繰り返し描かれるが、描き方が秀逸。
    日常の断片の繰り返しと印象的な炸裂音。朝のゴミ出しに失敗し、実業家の妻と違って、マイカーもなく、義父の経営する工場にバス通勤。疲れて帰ってくれば、夜は妻とセックスレス。
    現代の中高年のすべてがつまっているような男が、ある時突如変貌する。というか、本当の自分を現す。
    本当の俺はこんなんじゃない、という思いを映画は一挙にかなえていく。・・はず。
    全体についていえば、やや過度の殺しのシーン(映画『ザ・ファブル』同様、殺し屋がなぜかうじゃうじゃ出現する)、を除けば、死にかけの殺し屋との対話みたいのが、いくつかあって、これがじんわり効いていると思う。あとは、ホームアローンみたいな仕掛けで、悪役たちをやっつけていく。
    イントロの秀逸さにくらべると、悪役側の盛り立て方が、なんとなく腑に落ちない。
    振り返ると、馬力を効かせた車の入手とか、負傷する主人公の回復とか、あまり感情を表さない主人公のたんたんとした仕草とか、蘇ってくるものがあるが、ちぐはぐ感はいなめない。
    多分、主人公が対峙する悪者はかなり悪だが、と映画で規定されているが、その悪役ぶりにしては、感情の振幅が激しいのが、この映画の計算違いかもしれない。

    監督 イリヤ・ナイシュラー
    公開 2021年6月

    © 2021.Hiroshi Sano


  • 映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』は新境地!

    映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』は新境地!


    (C) 2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会

    映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』

    面白く出来ている、ともろ手をあげて言いたいところだが。
    なぜか、歯切れが悪くなるのは、私の中での消化不良のせいだろう。
    大筋では、毒をもって毒を制す。悪いやつらを倒す話だから、本当はスカッとしていいはずだ。
    アクションシーンも、これでもか、これでもか、と工夫満載で結構楽しめる。(突如、殺し屋が多数登場するので、ここまで出さなくても、とは思ったが、、)

    ところが、子どもを支援する福祉NPOの主催者が売春組織の親玉だったという設定が後味の悪いままになっている。

    場面展開ごとに、笑えるシーンがあるので、全編ブラックユーモアの世界といってもいいくらいだ。
    木村文乃の一貫したツッコミキャラがこの映画の狙いを明かしている。

    佐藤二郎がスベラないギャグをかませていて満点。木村文乃も及第点。主役の岡田准一は、役柄設定自体が、なにも演じる必要がない、という得した役割。
    そんななかで、堤真一はもう一人の主役で、ブラックをよく演じていたが、やや不発だった。
    原因は多分、映画全体で細分したフラッシュバックが多すぎたことではないだろうか。
    悪役堤真一の悪たる所以、少女役の平手友梨奈の家出の話、これらをを細切れにしないで、もう一工夫あった方がよかったのではないか、とも思う。例えば、(まとめて)複線として使っていれば、後方で何かが明かされたときに、カタルシスがうまれて、ひょっとしたら、感動もあったかもしれない。このあたりは見解の相違かもしれない。
    つくる側としては、いろいろな意味で面白さとかを、抜かりなく万全なものにしたかったのかもしれない。
    ちょっと引いた気持ちのゆとりがあったら、ひょっとしたら、名作になったかもしれない。
    平手友梨奈の存在感が抜群だし、工夫がこらされた力作だと思う。

    ブラックユーモアのありかたについては考えさせられた。

    (h.s)

    ©hiroshi sano

    監督 江口カン
    公開 2021年6月

    評価
    4/5

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