映画『キャッシュトラック』

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予想以上に面白い映画だった。
題名から、現金輸送トラックの話からとおもったら、そこは舞台で、本筋は男の復讐劇だった。話は入り組んでいるので、時間が前後したりして進んでいく。
出だしの2カットで事件の起因となる出来事を描写する。まず町の俯瞰があって、カメラがパンダウンするとそこは現金輸送車の基地だ。次のカットは輸送車内部の固定カメラになって、乗務員の乗り込みから、基地を出発して現金の強奪にあう一部始終を記録する。なぜか、安い予算の工夫がいっぱいの映画を思い起こした。
一転して、007も顔負けの、主演ジェイソン・ステイサムのさまざまな表情を使った派手なタイトルが始まる。
その後は、低いビート音を効かせた音楽が途切れることなくつづいて、緊迫した映像を載せていく。
要所要所にいつか見たようなストーリー展開がある。FBIも出てくるし、街のギャングも絡んでくるが、主人公にとっての本当の敵は、軍隊あがりの強盗集団と裏切り者だ。トランプのカードのようにいつもの要素を組み替えて観客の前に提供している、だけという見方のあるかもしれないが、今回の面白さは、どこかに秘密があるような気がする。
まず、容赦のない殺しが行われるが、血の匂いがない。
時間の流れどおりに描いていけばダレてしまう展開を、軍隊くずれの強盗集団の現金強奪計画についていえば、プランの段階であらゆる予想をさせて、かつ実際の犯行の合間に組み入れて説明ている。それが、主人公の側の事情のカットバックの手法と複雑に絡み合って、後半にいたって、合致する、といった構造になっている。この構造自体が多分、面白さの協力な味付けになっていると思う。
ただし、突然出現する軍隊あがりの集団に無理があったり、主人公が、前触れもなく最後の最後で復讐を遂げてしまうなど、強引さがあるが、構成の強さが勝っているのでそうした欠点はあまり意味のないものになってしまっている。
これは私の推測だが、監督はこれまでのジェイソン・ステイサムの映画をよく研究している。そして、まったくこわもてに見えないこの俳優をふかく信頼して映画を撮ったと思う。

監督 ガイ・リチー
公開 2021年11月