映画『ドライブ・マイ・カー』

気持ちよく観終わることが出来た。
チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」が枠組みとなっているようだ。
出だしからの何分間かは、夫婦の心理サスペンス的な展開の中でセックスが描かれていて、妻の不貞のシーンなどもある。
そして、タイトルが出て、いよいよ本編の「本編」が始まる、といったところで、ギアが一段おとされて、ゆるやかな流れとなっていく。
タイトルが出た後の映画の流れとしては、不貞の結実がどうなっていくのか、というのと、ワーニャ伯父さんの舞台の終幕を手話をまじえて見事に完結させる、ということと、この映画の題名の、主人公の車を代行運転する女性ドライバーの生い立ちをたどって北海道まで行く、というのがある。
それぞれがからみあって一つの映画となっているわけだが、これらの流れにそれぞれクライマックスというか結論めいたシーンが与えられている。
分かりやすく言えば、主人公のおとしまえ、ドライバーのおとしまえ、ワーニャ伯父さんのおとしまえ、が描かれた映画、とでも言えようか。
どのおとしまえもありきたり感が否めなくて、やや気落ちしたが、皮肉なことにワーニャ伯父さんの最後のシーンだけは、手話にもかかわらずというべきか、手話だからこそ、というべきか、演じた女優の演技力が伝わるようで印象深かった。

これはまったく蛇足だが、冒頭主人公が乗っている車がサーブ車で、なにが気に入って、という説明もなく登場している。ところが、最後の最後、広島から雪の早い北海道にこの車でたどりつくシーンではじめて、北欧製の車だから可能、という暗喩があることが分かる。映画上ではまったく小道具的な判断で、選ばれた車、ということになってしまった。

©hiroshi sano

監督 濱口竜介
公開 2021年9月