横溝正史『呪いの塔』

佐野 ヒロシ

横溝正史『呪いの塔』

横溝正史『呪いの塔』

あえて「ひまつぶし」と呼ばせてもらうが、そのココロは「つぶし」を最大に強調したいところにある。ブルドーザーのような力でみごとにヒマがつぶされていった。

列車に乗って軽井沢に向かう出だしから、筋立てがくっきりして、むだなく引き込まれる。本格探偵小説と銘打っているらしくて、その名に恥じないという心意気が興をそそる。なにしろ、百年前の小説、1920年に書かれたらしいが、全く今日にでも通用する。大正時代から戦前にかけての特殊な時代の賜物かもしれない。

列車が軽井沢について、主人公が別荘にトランクをおろすところから、いよいよ探偵小説の始まりである。登場人物、なぞの展開、描写のすべてが、無駄なくそそられる。プロットはいまでも通用するし、たぶんテレビドラマなどでは、繰り返し似たような設定で、われわれの目に触れているに違いない。

主人公がやたら座敷で寝そべるのが、ゆいいつ違和感ともいえるが、豊かな畳文化が失われつつある今を思い起こさせてくれる。

そんなこんなで、最後まで飽きずに読書の時間がたって行った。

ただし、冒頭にもどるが、みごとにヒマをつぶしてくれたが、あとには何も残らなかった。

(h.s)

©hiroshi sano


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